Steely Dan / The Royal Scam (幻想の摩天楼) (1976年) – アルバム・レビュー

2023年5月8日

おすすめのアルバムをショート・レビューで紹介する「アルバム・レビュー」。今日は、Steely Danの1976年のアルバム『The Royal Scam / 幻想の摩天楼』の紹介です。

Steely Dan / The Royal Scam (幻想の摩天楼) (1976年) フロント・カヴァー

Steely Danは、Donald Fagen(vo, k)とWalter Becker(g)を中心とするグループ。1972年の結成時には6人のメンバーがいたが、前作『Katy Lied』(75年)からはFagenとBeckerのユニットになり、代わりに腕のいいスタジオ・ミュージシャンを起用するレコーディング・スタイルに移行している。

この『Royal Scam』は5枚目のスタジオ・アルバム。前作までは穏やかなアメリカン・ポップスと呼べる作風だったが、本作では緊張感のあるクールな楽曲が多い。それは、ベンチに眠るホームレスの夢を描いたカヴァー・アートにも表れていて、夢の中では、猛獣と化した摩天楼が不吉な空の下で牙を剥いている。

前作ではJeff Porcaroがほとんどの曲でドラムスを担当したが、本作ではBernard Purdieがほとんどを担当し、Chuck Rainey(b)とのコンビで重たくも躍動感のあるビートを生みだしている。二人の生み出すグルーヴにLarry Carltonのギターがスリリングに絡んでいく「Kid Charlemagne」など、演奏面で印象に残る曲が多い。

ギタリストの顔ぶれが多彩で、曲によってソロイストを変えており、Larry Carltonが4曲(1, 3, 8, 9)、Elliott Randallが2曲(4, 6)、Dennis Diasが1曲(6)、Beckerが1曲(5)、Dean Parksが1曲(7)でソロを担当した。特に、DiasとRandall(、Carltonも?)がソロを弾いた「Green Earrings」は、本作のハイライトの一つ。フュージョン風に味付けされたクールな曲だが、Randallのソロが曲のフェード・アウトにかけてぐにゃっと変化するところがシュール。

本作からは、「Kid Charlemagne / 滅びゆく英雄」(米82位)、「The Fez / トルコ帽もないのに」(米59位)、「Haitian Divorce / ハイチ式離婚」(英17位)の3曲がシングル・カットされた。「Haitian Divorce」はレゲエ調の大らかなリズムが特徴で、トーク・ボックスが印象的に使われている。2015年の米ギター誌Guitar Worldの選ぶ「The Top 10 Talk Box Moments in Rock」では6位にランク・インしており、Bon Joviの「Livin' on a Prayer」よりも上。

ラストのタイトル曲では、再びCarltonがソロを担当。曲調もCarltonのギターも重々しい。秀逸なカヴァー・アートを担当したのは "Zox" というチームで、彼らのサイトを見ると、30作ほどのアルバム・カヴァーを手がけていることが分かるが、この『The Royal Scam』の奇妙さが異彩を放っている。

●収録曲
  1. Kid Charlemagne / 滅びゆく英雄 - 4:38
  2. The Caves Of Altamira / アルタミラの洞窟の警告 - 3:33
  3. Don't Take Me Alive / 最後の無法者 - 4:18
  4. Sign In Stranger / 狂った町 - 4:22
  5. The Fez / トルコ帽もないのに - 3:59
  6. Green Earrings / 緑のイヤリング - 4:05
  7. Haitian Divorce / ハイチ式離婚 - 5:30
  8. Everything You Did / 裏切りの売女 - 3:54
  9. The Royal Scam / 幻想の摩天楼 - 6:31

◆プロデュース: Gary Katz

◆参加ミュージシャン: Donald Fagen(vo, k), Walter Becker(g, b)
with Larry Carlton/Dennis Dias/Dean Parks/Elliot Randall(g), Victor Feldman(k, per), Paul Griffin/Don Drolnick(k), Chuck Rainey(b), Bernard Purdie/Rick Marotta(ds), Gary Coleman(per), Jim Horn/Plas Johnson/John Klemmer(horns), Michael McDonald/Timothy Schmit(bv), etc

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