Boz Scaggs / Silk Degrees (1976年) – アルバム・レビュー

2023年5月4日

おすすめのアルバムをショート・レビューで紹介する「アルバム・レビュー」。今日は、Boz Scaggsの1976年のアルバム『Silk Degrees』の紹介です。

Boz Scaggs / Silk Degrees (1976年) フロント・カヴァー

Boz Scaggsは今やアメリカのブルー・アイド・ソウル~Adult Contemporaryシーンを代表するミュージシャンの一人。デビューしたのは1965年で、Bozが21歳のとき。オハイオ州生まれの南部育ちだが、R&Bが盛り上がっていたロンドンに渡り、意外なことにスウェーデンのレーベルからデビュー・アルバムの『Boz』を発表している。スウェーデンは祖父母の生まれ故郷らしい。

『Boz』にはオリジナル曲はなく、私は未聴だが、フォーク・ブルースのスタンダード・ナンバーをアコギとハーモニカの弾き語りで歌っているようだ。Boz Scaggsの音楽のルーツはブルースにある。

アメリカに戻ったBozは、学生時代の旧友だったSteve Millerのバンド(Steve Miller Band)に参加し、最初の2枚のアルバム(『Children of the Future』と『Sailor』。いずれも68年発表)でギターとヴォーカルを担当している。その後はソロ・アーティストとして、R&Bに根差しながら音楽のスタイルを次第に洗練させていく。

この『Silk Degrees』はBoz Scaggsの代表作に挙げられることの多いアルバム。特にAOR人気の高い日本においては、AOR屈指の名盤として揺るぎない地位を築いている。本作の発売40周年にあたる2016年には、ソニー・ミュージックから「ソニー AOR誕生40周年記念 AOR CITY 1000」と題したシリーズまで企画され、100タイトルのCDが発売された。

10曲の収録曲はソウル、ファンク、ポップ、ロック、レゲエ、バラードとバラエティに富み、ヒット・ポテンシャルの高いキャッチーな曲が多い。翌年にTOTOを結成するDavid Paich(k), Jeff Porcaro(ds), David Hungate(b)の若々しい演奏に支えられ、Bozの歌声もその滑らかさと艶っぽさを増している。写真家のMoshe Brakha(モシャ・ブラカ)の撮影したフロント・カヴァーから漂う大人の色気にも目を奪われる。

プロデュースを担当したのはJoe Wissert。曲作りにはDavid Paichが大きく貢献し、5曲(1, 3, 6, 7, 9)をBozと共作したほか、レゲエ調の「Love Me Tomorrow」を提供。残りはバラードを中心にBozの自作が3曲(2, 5, 10)。また、Allen Toussaintの75年のアルバム『Southern Nights』から「What Do You Want The Girl Tod Do / あの娘に何をさせたいんだ」をカヴァーしている。ニューオーリンズのR&Bシーンで活躍したAllen Toussaint(トゥーサン)はBozのお気に入りのピアニスト。Toussaintの曲をカヴァーするのはこれで4曲目になる。

それでは、おすすめの曲を紹介。

まずはヒット曲から。本作からは「Lowdown」が全米チャートの3位、「Lido Shuffle」が11位になるヒットを記録した。ファンキー&メロウなディスコ調の「Lowdown」は、キャリア初かつ唯一のトップ10ヒット曲。ここでは、Paich - Porcaro - HungateのTOTO組に加えて、Louie Sheltonのギターがいい音を出している。Jeff Porcaroらしい軽やかなシャッフルで始まる「Lido Shuffle」もファンキーなナンバーだ。後半ではホーン・セクションやPaichの弾くムーグ・シンセサイザーが加わって、華やかに盛り上がる。

「What Can I Say / 何て言えばいいんだろう」と「Georgia」はソウル~R&Bベースのポップなナンバー。どこか懐かしさのある「What Can I Say」はサード・シングルになり、チャートの42位をマーク。続く「Georgia」は気持ちのいい高揚感のあるナンバーで、"Georgia, I swear I never seen such a smile" というフレーズで始まる歌詞はとても情熱的でロマンティック。

「Jump Street」は、Les Dudekのスライド・ギターをフィーチャしたロック・ナンバー。Les Dudekは2年前からBozのバック・バンドの一員として活躍している24歳のギタリストだ。Duane Allman率いるThe Allman Brothers Bandのアルバムでギターを弾いたこともあり、24歳で夭逝したDuane Allmanに風貌がそっくり。Bozはその才能を見込んで、『Silk Degrees』と同じ年に発表されたLes Dudekのデビュー・アルバム『Les Dudek』のプロデュースを引き受けている。

レコードで言うA面、B面の終わりにはBoz Scaggsを代表する美しいバラードが1曲ずつ収められた。

静かなイントロから "Son of a Tokyo rose" のフレーズで始まる「Harbor Lights / 港の灯」は穏やかな郷愁を漂わせるナンバー。きらきらとしたエレピの音が夜の港の水面に煌めく灯のようだ。

一方の「We're All Alone / 二人だけ」はバラードのスタンダードとも言える有名曲。Bozはこの美しいメロディを高めのキーでしなやかに、力強く歌う。ゴージャスなストリングスにひとしきり包まれた後の最後のフレーズ "All's forgotten now, my love." を歌う声の熱さとひたむきさに胸を打たれる。

BS-TBSの洋楽番組『Song To Soul』でこの曲を取りあげたことがあり、Boz Scaggs本人が美しい歌詞にまつわる秘話を語っていた。私的な曲であることと、詞を書けずに苦労したが、レコーディングのマイクに向かった時に言葉が溢れ出てきたことを語っていて、感動した憶えがある。

このアルバムは全米チャートの2位を記録。76年のグラミー賞では「Lowdown」がBest R&B Songに輝いた。AORの代表作は他にもあるだろうが、Boz Scaggsの代表作を問われたらこのアルバムを答えるだろう。

●収録曲
  1. What Can I Say / 何て言えばいいんだろう - 3:01
  2. Georgia - 3:57
  3. Jump Street - 5:14
  4. What Do You Want The Girl To Do / あの娘に何をさせたいんだ - 3:53
  5. Harbor Lights / 港の灯 - 5:58
  6. Lowdown - 5:18
  7. It's Over / すべては終わり - 2:52
  8. Love Me Tomorrow / 明日に愛して - 3:17
  9. Lido Shuffle - 3:44
  10. We're All Alone / 二人だけ - 4:14

◆プロデュース: Joe Wissert

◆参加ミュージシャン: David Paich(k, ar), Louie Shelton/Fred Tackett/Les Dudek(g), David Hungate(b), Jeff Porcaro(ds), Tom Scott(sax), Joe Porcaro(per), etc

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