Joe Jackson / Night and Day (1982年) – アルバム・レビュー

2023年1月15日

おすすめのアルバムをショート・レビューで紹介する「アルバム・レビュー」。今日は、Joe Jacksonの1982年のアルバム『Night and Day』の紹介です。

Joe Jackson / Night and Day (1982年) フロント・カヴァー

Joe Jacksonは英国出身の先鋭的なミュージシャン。ロンドンの王立音楽アカデミーでクラシック音楽の作曲を学んだ才人だが、その才能をポピュラー・ミュージックの分野で発揮している。

1979年に『Look Sharp!』でアルバム・デビューし、パンク・ロック、レゲエ、ジャンプ・ミュージックと、1作ごとに作風を変えるこだわりを持ちながらアルバムを作り続けている。

この『Night and Day』は、イギリスからニューヨークに活動拠点を移して制作された5作目。"Night Side" と題された前半5曲と、"Day Side" と題された後半4曲の2部構成になっている。

"Night Side" は、ヒップ・ホップ、オリエンタル、ファンク、ラテン、エレクトロ・ポップと、多彩で華やかな構成。様々な人種と文化が混ざり合うニューヨークの夜の街には、当時こうした音楽が流れていたのだろう。都会の夜をエンドレスに過ごす人々のように、曲は切れ目なく繋がっている。

"Day Side" と題された後半は、一転して落ち着いたシリアスな構成。昨夜の喧騒が嘘のように現実に戻り、人々はそれぞれの日常の悩み事に向き合っていく。内容はシリアスだが、優しく美しいメロディの曲が多い。

では、このアルバムから4曲をピック・アップ。

まずは "Night Side" から、都会的なエレクトロ・ポップの「Steppin' Out」を。ドラム・マシーンを使ったシンプルなリズムだが、起伏のあるメロディ・ラインとJoe Jacksonの溌溂としたヴォーカルにより躍動感のある曲になっている。ピアノとグロッケンシュピール(鉄琴)の美しい響きも、前向きで凛々しい詞の内容にマッチ。この曲は英米両方のチャートで6位を記録するヒットになった。米米CLUBの87年のヒット曲「浪漫飛行」のベース・ラインが似ているという説があるが、「Steppin' Out」に影響されたのかどうかは分からない。

次は、"Day Side" の1曲目の「Breaking Us in Two」。"君は僕のすることをしないし、僕にできないことをしたがる / いつだって何かが僕らの仲を裂こうとする…" と、うまく行かない男女の仲を歌っている。Joe JacksonはNYに移る前に離婚したようで、そのことが歌の背景にあるのかも。この曲は全米チャートの18位(ACチャートでは8位)をマークした。

3曲目は、"Day Side" から「Real Men」。「男らしさって一体何?」と問いかける内容は、性の多様性について歌っているようだ。起伏のある曲調で、ピアノの弾き語り調に粛々と歌いながら、サビではエコーの効いたドラムスがフィル・スペクター・サウンドのように気持ちよく鳴る。アルバムからのファースト・シングルはこの曲で、どういう訳かオーストリアのチャートで6位を記録する大ヒットになっている。

ラスト・ナンバーの「A Slow Song」は、"僕たちにスローな曲をかけてくれ" とDJに嘆願する歌。「音楽には魅力があるというけれど、一部の人の手で野蛮な獣にもなる / 強くて静かな音を求めているのは、僕だけなの?」と歌っている。曲は優しい子守歌のように静かに始まるが、サビでは "Play us a slow song" と、ややシャウト気味。一方、間奏ではオルガンの柔らかく懐かしい音色に深く癒される。コンサートでは、この曲が最後に歌われることが多いようだ。

このアルバムは全英3位、全米では4位を記録し、Joe Jacksonのキャリア最大のヒット・アルバムになった。

タイトルの「Night and Day」は、アメリカの作曲家のCole Porterが1932年に書いた曲から取ったようだ。この曲は多くの人に演奏されていて、ジャズ・ピアニストのDuke Ellingtonもその一人。インナー・ジャケットの最後には、Duke Ellingtonの言葉が記されている。

"I am an optimist. From where it is, music is mostly all right, or at least in a healthy state for the future, in spite of the fact that it may sound as though it is being held hostage."

- 私は楽天家だ。音楽は大丈夫。少なくとも良くなる方向には向かってるよ。今はまるで捕らわれの身のようだけどね

Joe Jacksonも「大丈夫」と思っていたのかも。次作の『Body and Soul』では尖った姿勢が和らいで、メロディの良さがより一層際立つ内容になっている。

●収録曲
  1. Another World - 3:53
  2. Chinatown - 4:07
  3. T.V. Age - 3:47
  4. Target - 3:48
  5. Steppin' Out - 4:23
  6. Breaking Us in Two - 4:53
  7. Cancer - 5:58
  8. Real Men - 4:04
  9. A Slow Song - 7:01

◆プロデュース: Joe Jackson(k, sy, sax, vo), David Kershenbaum

◆参加ミュージシャン: Graham Maby(b, bv, per), Larry Tolfree(ds, per), Sue Hadjopoulos/Ricardo Torres(per), Ed Rynesdal(violin), Al Weisman/Grace Millan(bv)

追記:村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス(下)』を読んでいたら、主人公の「僕」がJoe Jacksonについて次のようにコメントしていたので紹介。なるほど、と感心しました。その "ある種の輝き" は日本に暮らす私には届いています。

ある種の輝きを有しながらもそれを普遍化する能力が幾分不足した(不足していると僕には思える)ジョー・ジャクソン

村上春樹, 1988, 『ダンス・ダンス・ダンス(下)』, 講談社

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