Christopher Cross / Christopher Cross (南から来た男) (1979年) – アルバム・レビュー

2020年2月8日

おすすめのアルバムをショート・レビューで紹介する「アルバム・レビュー」。今日は、Christopher Crossの1979年のアルバム『Christopher Cross / 南から来た男』の紹介です。

Christopher Cross / Christopher Cross (南から来た男) (1979年) フロント・カヴァー

Christopher Crossはテキサス州生まれのシンガー・ソングライター。70年代初めの頃は、地元のFlashというハード・ロック・バンドでヴォーカルとギターを担当し、Led ZeppelinやDeep Purple, ZZ Topなどの前座をつとめていたらしい。その後、ワーナー・ブラザーズと契約する機会を得て、この『Christopher Cross / 南から来た男』でデビューした。

このアルバムは、最も華々しい成果をあげたAORのアルバムの1つ。全米チャートの1位を獲得した「Sailing」を始め、「Ride Like The Wind」(同2位)、「Never Be The Same」(15位)、「Say You'll be Mine」(20位)の4曲がシングル・ヒットし、アルバムも全米チャートの6位をマーク。80年のグラミー賞では、「Album of the Year」, 「Song of the Year」(Sailing), 「Best New Artist」を含む5部門を受賞している。

プロデュースを担当したのはMichael Omartian。全曲がChristopher Crossの自作のナンバーだ。当時のバンド仲間のRob Meurer(k), Andy Salmon(b), Tommy Taylor(ds)を中心に、Larry Carlton/Jay Graydon(g)、Michael McDonald/Don Henley/J.D. Souther/Valerie Carter/Nicolette Larson(bv)といった人気ミュージシャンを招いて制作されている。

ポップな「Say You'll Be Mine」では、Jay Graydonが陽気でトリッキーなギター・ソロを披露。フレッシュな女性バック・ヴォーカルはNicolette Larsonだ。Jay Graydonは「Never Be The Same / もう二度と」でもソロを弾いており、そちらではGraydonらしく華やかにギターを鳴らしている。

Christopher Crossの澄み切った歌声には格別の清涼感がある。豪華なバック・ヴォーカリストたちとの相性もばっちりで、その中でも、Valerie Carterと親密にデュエットするバラード・ナンバーの「Spinning」がいい。Valerie Carterの愁いのある美声が何ともロマンティックに響く。

"Dedicated to Lowell George" と記された「Ride Like The Wind / 風立ちぬ」は、Little Featの中心メンバーとして活躍し、79年に他界したLowell Georgeに捧げられたロック・ナンバー。穏やかで美しい曲が多いなかで、この曲のシャープでビターな印象は異色。颯爽としたヴォーカル・ハーモニーはChristopher CrossとMichael McDonald。情熱的なギター・ソロもChristopher Cross本人が弾いている。英国ハード・ロック・バンドのSaxonが88年にこの曲をカヴァーし、UKでは52位をマークした。

「Sailing」はAOR史に残る美しい曲。Christopher Crossのヴォーカルの美しさが最も映える曲でもある。アメリカでこのアルバムが発表されたのは79年の12月だが、日本では80年春に「南から来た男」という素敵な邦題で発売された。「Sailing」の清々しいメロディを聴くと、黄金の80年代の幕開けという感じがする。

他にも、Larry Carltonの技ありのギター・ソロやMichael McDonaldの美しいヴォーカルが光る「I Really Don't Know Anymore / 愛はまぼろし」など、印象に残る曲が多い。

私がこのアルバムの全体を初めて聴いたのは、2000年前後のAOR再評価ブームの頃だった。それまでは、ヒット曲の「Sailing」と「風立ちぬ」しか知らなかったが、アルバム全体のクオリティの高さに感動し、もっと早く出会うべきだった…と後悔。AORはアルバムで聴くジャンルなのです。

●収録曲
  1. Say You'll Be Mine - 2:53
  2. I Really Don't Know Anymore / 愛はまぼろし - 3:49
  3. Spinning - 3:59
  4. Never Be The Same / もう二度と - 4:40
  5. Poor Shirley / 哀れなシャーリー - 4:20
  6. Ride Like The Wind / 風立ちぬ - 4:30
  7. The Light Is On - 4:07
  8. Sailing - 4:14
  9. Minstrel Gigolo / ジゴロの芸人 - 6:00

◆プロデュース: Michael Omartian(k, bv)

◆参加ミュージシャン: Christopher Cross(vo, g), Larry Carlton/Jay Graydon/Eric Johnson(g), Rob Meurer(k), Andy Salmon(b), Tommy Taylor(ds), Victor Feldman(per), Jim Horn(sax), Michael McDonald/Don Henley/J.D. Souther/Valerie Carter/Nicolette Larson/Marty McCall(bv), etc

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